運命の輪

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「今日は愛里どうしたんですか?」 「バイオリンのコンクールが近いから休むそうだ」功三郎は嬉しそうに答える。 「どうしたんスか師匠?嬉しそうな顔して」嬉しそうに笑う功三郎だったが、なぜかそんな笑顔が切なく見えた。 「実はな、愛里が初めてコンクールのチケットをくれたんだ。クラシックはわからんが何だか嬉しくてな」師範の顔から祖父の顔になっている。愛里の口調と態度に対して功三郎はあまり良く思っていない。しかし、そうなってしまう理由をしっているためあまり強く注意ができなかった。愛里も祖父に強く言われれば態度を改めるだろう、家族のなかで愛里は功三郎が一番すきだった。もちろん父親の幸彦も母親の光子の事も大好きだ、しかし、幸彦は仕事が忙しく幼少の頃から遊んでもらった記憶は無い、常に勝者であれ強くあれと厳しく育てられた、その厳しさの中にも優しさがあった。光子も幸彦の手伝いで忙しく会社と家や取引先を行ったり来たり、優雅に美しくといつも優しく諭すように育てられた。幸彦よりは一緒にいられる時間はあったが最近ではゆっくり会話を楽しむ時間はない。幼少のころの遊び相手は執事の八木や功三郎や天馬くらいだった。中でも功三郎は常に愛里のわがままをきき甘えさせてくれた。最近では功三郎も将来のためにといろいろ口煩く言うようにはしているがやはり孫は可愛く甘さが出てしまう。だから愛里の招待が嬉しくてしかたなかった。 「そうなんだ」天馬も何か嬉しくなって笑った。 「ほれ天馬、みんな帰ってしまったぞ、あまり遅いとご家族のかたも心配する。早くかえりなさい」 「おっす」天馬は急いで道着をきがえた、なぜか嫌な胸騒ぎが拭えない。 「何者だ!」突然功三郎の怒鳴り声が聞こえた。 天馬は脱ぎかけていた道着のズボンを再びはく。そして更衣室のドアを少し開け、道場の様子を覗き見た。 「金をだせ」ストッキングを被った男が一人、功三郎に拳銃を向けて立っていた。 「金など道場に置いてあるわけなかろうが」功三郎は怯む様子もなく、向かい合って立っている。どうやら男は神戸財閥の金目当ての強盗らしい。 「今日は月謝だろ?」男がイライラしながら叫ぶ。 「後ろの金庫の中だ」何故今日が月謝の日だとしっていたのかはわからないが男の気をそらすため溜め息を一つついてから答えた。 功三郎の狙い通り男が振り替える。その隙をついて男の手から拳銃を奪った。
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