運命の輪

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その時一度銃声が道場に響いた。暴発した銃弾は道場のすみに置いてあった花瓶に着弾する、花瓶は盛大に砕け散った。 「愚か者!」功三郎は男の顔からストッキングをはぎとる。 「おぬし!!」功三郎は男の顔をみて驚いた。無精髭をはやししばらく風呂にも入っていないのか汚らしくアルコール臭いその顔は、かつて白葉義流の門下生だった男だった。その実力は功三郎にも匹敵した、あんな事件があるまでは真面目な男だったのだが・・・ 「死ねジジイ」驚いている功三郎を男は隠し持っていたナイフで突き刺す。功三郎はその場に倒れた。 (師匠!)天馬は飛び出しそうになったが、功三郎が来るなと小さく合図を送っているのに気付いた。 「あばよ師匠!」男は拳銃を拾い功三郎に破棄捨てるように言うと残りの銃弾を撃ち込んだ。 「師匠ーー!!!!」天馬は堪えきれず更衣室を飛び出し功三郎の元に駆け寄った。 「何だ?ガキが残ってたのか・・・・お前どこかで見た顔だな?」男は勝ち誇った様に笑っている。 「何をしている天馬・・・に・・逃げろ・・・」功三郎はやっとの思いで声を絞りだしている。 「今救急車呼ぶから師匠」天馬は泣きながら功三郎に告げる。 「愛・・・愛里にコンクール・・・す、すまんと・・・・・」功三郎はそのまま永久の眠りについた・・・ 「死んだぞ、フハハハハハ」男が笑い出す。 「・・・・・・黙ってろよ」あの時の様に黒い烏が風に舞う木の葉様に天馬の心に舞い降りてきた。 「お爺様!」突然愛里があらわれ、功三郎の元へ駆け寄る。 「お前たちも俺の顔を見たんだから殺すよ」男は二人にナイフを向ける。 「貴様がお爺様を・・・」愛里が男をにらみつける、その鋭い眼孔はまるで般若の様だった。 「だったら何だよ?」 「だから黙ってろよ、殺してやるから・・・」天馬が立ち上がると、男はナイフを天馬に向ける。次の瞬間愛里が男の足を刈る、それを合図に天馬がナイフを蹴り飛ばした。二人は息のあった連携で男を倒す。 「死んどけ」天馬は落ちていた拳銃を拾いあげ男に向ける、愛里はそれをみて天馬に出会った日を思い出した。あの日、天馬は自分におもちゃの鉄砲を向けた、バカバカしいと思っていたが天馬はとても心優しい少年だった。友達は皆自分を嫌っている、大人達は優しく接してくれたがそれは愛里にではなく神戸財閥の一人娘という肩書きにだった。
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