運命の輪

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ただ、天馬だけは違った、どんなときでも優しく接してくれた。しかし、今の天馬はまるで悪魔のように見えた。 「バカが!」男は急に立ち上がった、天馬は引金を引いたが銃弾は残っていない、立ち上がった男に天馬は蹴り倒された。男はすぐにナイフを拾おうとして手を伸ばす、それをみた愛里がナイフを蹴り飛ばす。 「貴様!」 「りゃ~!!!」愛里に気をとられていた男の背後から天馬が愛里のバイオリンケースで後頭部を強打する、男は意識を失った。 「お爺様・・・」愛里は功三郎の元に駆け寄り泣き出した。 「・・・・・」功三郎の右手が道着のふところに延びていて何かを握り締めていた、愛里はそれが気になり確かめる。功三郎が握っていたのは一枚の血にそまった封筒だった。中からバイオリンコンクールのチケットが出てきた。 「何故こんなものを稽古場に?」愛里が呟く。 「師匠嬉しかったんだよ、お前がコンクール誘ってくれたこと・・・・・お前にコンクールすまないって最後に・・・・」二人の悲しみが道場を支配した。 その後異変に気付き道場に駆け付けた執事の八木の通報によって駆け付けた警察に男は逮捕された。 天馬はこの事件以来心を閉ざしてしまった。正しい人間が自分の欲の為に悪を働く人間にあっさり殺されてしまった、そんな悲しくも残酷な現実を見つめ痛感してしまった純粋な天馬の心は粉ごなに打ち砕かれ、行き場を失った天馬はタバコや暴力に逃げてしまった、家ではバカ息子と罵られ学校では落ちこぼれと虫けらあつかいされた、後は決められたレールの上を走る様にスコーピオンという暴走族のチームに入り、白葉義流を使いあれよあれよというまにグループのトップに登りつめた。ただ無心で暴れ頂点に立った時に天馬は気付いた、皆自分とおんなじなんだと、あるものは親に、あるものは友達に、あるものは教師に心を傷つけられていた、もちろんそうではない者もいるが同じ様な境遇にいた。そんな仲間とは気が合った、そして信頼しあうことができたお陰で天馬は再び優しさを取り戻すことができた。 「お父さんは何で捕まったの?私をぶったから?」麻衣が母親にたずねる。 「ごめんね、麻衣」母親が麻衣に泣きながら謝る。 「いいよお母さん・・・・あんなやつ死んじゃえばいいのに、死んじゃえば・・・・」麻衣の表情が変わった、母親は麻衣の異変に気付いてしまった。 「いつか殺してやる」麻美は笑った。
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