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不審に思った女は、傍に置いてあったシルクの薄物を纏い、するりと猫のように男の腕から抜け出す。男は胸の辺りにあった暖かみが無くなって事に不満を感じたかのように眉を顰(ひそ)めたが、その内また幸せそうな寝顔に戻った。
それを見ていた女は、呆れた顔をして肩を竦め、寝間から次の部屋に続く扉を開く。それと同時に凝った意匠(デザイン)の扉が外側からノックされた。
扉を開けると、そこには見慣れた侍女の姿があった。
「どうした?」
女が問い掛けると、常ならば溌剌として誰からも好印象を抱(いだ)かれる侍女は、顔を真っ青にしながら何かを言おうとしていた。
寝間に続く扉は開いたままになっており、目を醒ましたらしい男が寝起きの不機嫌さと、見慣れた侍女がいつもとは違う様子なのを不審に思った瞳をこちらに向けていた。
「どうした?」
もう一度問い掛けると、侍女は意を決したかのように顔を上げ、自分の主人である女の目を見ながら、震える声で告げた。
「レーナマリア様が、自害なされました」
その言葉に、女は冷たい手に心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。
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