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その男は黒いスーツ姿の上からぶ厚い防弾ベストや膝当てなどをつけ、その手にはレーザーサイト付きのサブマシンガンが握りしめられていた。
どう見たって看守ではない。
彼は坊主頭の囚人に銃を向けた。
「下がれ…。そこから1歩も動くな…。動いたら容赦なく撃つ。」
坊主頭の囚人は何が何だかわからず、言うとおりにするしかない。
銃を構える男と同じ服装の女が、独房の中に入ってくる。
最後に、藍色のダブルコートを着た1人の老人が、同じく防護服姿の男を伴って入ってきた。
囚人は、先程の会話で「総理」という言葉がでたのを思い出した。
つまり彼は、今の日本の内閣総理大臣ということだろうか?
独房での長い生活は、1人の囚人の脳内から様々な記憶を消し去ってしまっていた。
すると、老人がこちらに気づいた。
「見覚えのある顔だ…」
内閣総理大臣と思しき老人が声をかけてくる。
周りの3人の男女は、ほぼ同時にこちらを見た。
「悪いが…名前を訊かせてくれんか?」
まだ防護服の男の1人は銃を向けている。
囚人は答えた。
「俺は…俺の名前は…」
刑務所では番号で呼ばれるため、わかっていても口から出てこない。
「…俺の名前は魅沢怜一(みさわれいいち)だが…」
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