地下道を抜けて

4/27
前へ
/29ページ
次へ
その男は黒いスーツ姿の上からぶ厚い防弾ベストや膝当てなどをつけ、その手にはレーザーサイト付きのサブマシンガンが握りしめられていた。 どう見たって看守ではない。 彼は坊主頭の囚人に銃を向けた。 「下がれ…。そこから1歩も動くな…。動いたら容赦なく撃つ。」 坊主頭の囚人は何が何だかわからず、言うとおりにするしかない。 銃を構える男と同じ服装の女が、独房の中に入ってくる。 最後に、藍色のダブルコートを着た1人の老人が、同じく防護服姿の男を伴って入ってきた。 囚人は、先程の会話で「総理」という言葉がでたのを思い出した。 つまり彼は、今の日本の内閣総理大臣ということだろうか? 独房での長い生活は、1人の囚人の脳内から様々な記憶を消し去ってしまっていた。 すると、老人がこちらに気づいた。 「見覚えのある顔だ…」 内閣総理大臣と思しき老人が声をかけてくる。 周りの3人の男女は、ほぼ同時にこちらを見た。 「悪いが…名前を訊かせてくれんか?」 まだ防護服の男の1人は銃を向けている。 囚人は答えた。 「俺は…俺の名前は…」 刑務所では番号で呼ばれるため、わかっていても口から出てこない。 「…俺の名前は魅沢怜一(みさわれいいち)だが…」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加