プロローグ

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人生は本当に何が起こるか解らないものだ。 まさかアタシがこんな人生を歩む事になるなんて……。 始まりは先月親友のアケミと行ったタイ旅行だった。 旅行が趣味で男もいないアタシは、半ば強引にアケミを誘いタイの北部チェンマイにやってきた。 勿論、旅費はアケミの分も全額アタシ持ち。 実家住まいで男もなく、旅行以外の趣味もなかったアタシは普通に生活している分には給料をほとんど使う事もなかった。 だから、家にいくらか入れても毎月貯金は貯まっていった。 結婚も半ば諦めていたアタシは、貯金とは別に旅行用の資金を貯めていて、年に二、三回は海外旅行にいけるようにしていた。 旅行が好きな割に気が弱いアタシは一人で海外に行く事ができず、いつもアケミを誘っていた。 アケミはなんだかんだと文句を言いながらもアタシに付き合ってくれる唯一の親友だった。 そんなアタシとアケミは、チェンマイのサンカンペーンに温泉に入りにやってきた。 ここは硫黄泉が湧き出る天然の温泉があり、南国のタイからは想像できないような秘境があるというのだ。 温泉を楽しみにしていたアタシとアケミだったが、現地に着いてみて目を丸くした。 そこはアタシが想像していたような秘境の露天風呂ではなく、カップル御用達の木造連れ込み宿のような汚い貸し切り風呂で、至る所に蟻が行列を作ってうごめいていたり、蜘蛛の巣が張っていたりで、寂れた所だった。 「まぁ、現実はこんなもんだよね」と笑いながら納得したアタシとは対象的に、アケミはこんな所は冗談じゃないと怒りだし、隣にあった綺麗な温水プールに行ってしまった。 この時、アケミと一緒に温水プールに行っていればアタシの人生は平凡なままだったのに……。 せっかくタイまで来たんだからと欲を出し、アタシは一人で貸し切りの温泉に入る事にしたのだった。 【続く】
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