プロローグ

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見かけはボロかったがやっぱり温泉は最高だった。 蛇口から吹き出る源泉は意外にも熱く、水でうめながらアタシの適温に調節した。 あ~気持ちいい……。 温かい温泉に浸かっている内に初めはびっくりした蟻の行列や蜘蛛の巣もどうでもよくなってきた。 温泉の効能だろうか? みるみる内に肌がツルツルになっていった。 あ~何かこうやってるだけで美人に生まれ変わっていく気がする……。 なんてね……そんなわけないよね。 こんな夢心地でいられるのもこの南国でリゾートを楽しんでいる間だけ……。 そりゃそうだよね。 旅行の間は働かないわけだし、面倒な人間関係も一瞬忘れられる。 だけど、日本に帰ったらそこには厳しい現実が待っている。 毎日満員電車に揺られ、会社では上司に怒られ、同僚からは馬鹿にされて、恋人もなく、ただ実家に帰ってビールを飲みながらテレビでドラマやバラエティー番組を見て眠るだけの毎日。 そして、目が覚めればまた同じ事の繰り返し。 50年先まで想像できる平凡なアタシの人生。 だけど、それが現実のアタシの生きる世界……。 せめて今この瞬間は夢の中にいさせて……。 そんな事を考えている内にアタシは睡魔に襲われ、浴槽に浸かったまま眠り込んでしまった。 壁によっ掛かって座っていたアタシの体はみるみるうちに崩れ落ち、アタシは湯舟の中に倒れ込んでいた。 気がつくとアタシは温泉の中にいた。 苦しい……。 誰か助けて……。 一瞬、アタシの脳裏にこれまでの人生が走馬灯のように駆け巡っていった。 何もなかった平凡なアタシの人生……。 思い出すのは辛い事や悲しい事ばかりだった。 たった一つのアタシの願いも結局敵わなかった。 人生は本当に不公平だ。 本当にアタシの人生はこれで終わりなの……。 【続く】
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