第一章 クシャミでインアウト

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「行ってきま~す」 母にそう言って家を出たアタシは駅に向かって歩き出した。 朝起きてから会社までの通勤時間が1番おもしろかった。 今朝のアタシはどっちだろう……? 住宅街を抜けて大通りに出るとそれははっきりと解った。 すれ違う男達の視線を感じる。 だけどアタシが視線を絡ませようとすると、相手の男は顔を赤らめ視線を反らせる。 フフフ、かわいい……。 車道を挟んだ反対側の道を歩いている男もアタシの事を見てる。 間違いない。 今のアタシはもう一人のアタシだ……。 それにしても何て気分がいいんだろう。 あぁ、モテるってこんな感じなんだ……。 外見は全く変わっていないのに、本当に不思議だった。 タイから帰国して早一週間。 平凡だったアタシの人生は劇的に変化を遂げていた。 どういうわけか、アタシは急に男にモテるようになっていた。 道を歩いていれば何人もの男達に声を掛けられ、電車に乗れば痴漢に遭う始末だった。 確かにいいことばかりじゃなかったけど、どれも生まれて初めての経験だった。 アタシの日常は間違いなく変わった。 でもどうしてだろう……。 アタシのこの変化は常に安定しているわけではなかった……。 あ、きた……。 ダメ……。 後もう少しだけ待って……。 クシュン! ああ、クシャミが出ちゃった……。 途端に男達の視線が消えた。 すれ違っても誰もアタシを見ない。 一体どうしてなんだろう? タイから帰国したアタシはクシャミをする度にモテるようになったり、元のモテないアタシに戻ったりした。 一体、アタシの身体はどうしたんだろう……? 外見的には全く変化していないにも関わらず、クシャミをする度にアタシの周りの男達の反応はあからさまに変わるのだ。 一体何が原因なんだろう……? 考えられるとすればやっぱりあれしかない……。 タイの温泉で溺れかけたあの日から、アタシの周りの反応はおかしくなったんだ。 やっぱりあの温泉のせいなのかな……? それにしてもこれってどういう事なんだろう? とにかく、アタシの日常は変わってしまった……。 【続く】
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