第一章 クシャミでインアウト

3/8

176人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
毎日乗る通勤電車は本当に嫌なものだ。 必然的に通勤の時間帯は常に満員状態になる。 背の高い男達に取り囲まれるように乗り込む車内はギュウギュウ詰めで、まさに蒸し風呂状態だった。 おまけにオヤジ達から滲み出る過齢臭が充満し、たまに窒息しそうになるくまらい不快感を覚える。 こんな想いを毎日してまで会社に通う必要って本当にあるんだろか……と本気で感じる事がある。 だけど、タイから帰ってきたアタシは今までとは違う悩みを持つようになっていた。 駅に向かう道のりで一回クシャミをした……。 だから今は今までのアタシ……。 満員電車の中ではこのままでいい。 今、クシャミをしたら大変……。 そんな時、アタシの前に立っていた女の髪が車内換気の為に付けられている扇風機の風に揺られ、アタシの鼻の前でうごめいていた。 あ、ダメ……。 待って、あと少しなのに……。 クシュン! アタシは思わずクシャミをしてしまった。 途端に辺りの空気が変わっていくのが分かった。 男達の視線がアタシに突き刺さる。 スーツ姿のサラリーマン達が発情した獣へと変わっていく。 すぐに触手のような手がアタシのお尻に伸びてきた。 アタシは無言でその手を払いのけたが、すぐにまた男の手は伸びてくる。 これまでアタシは一回も痴漢にあった事がなかった。 いくらモテなくても痴漢にあったという女の子の話を聞くとブスにもいい事はあるのかな……と思った。 でも、心の片隅ではほんの少しだけ淋しい気持ちもあった……。 痴漢される子はそれだけ魅力があるって事だもんな。 男から見てアタシは触りたくもない女って事なのかな……。 ああ、一度でいいから痴漢されてみたい……。 そんな想いを昔はしたことがあったけど、実際に痴漢にあってみるとそんな気持ちはすぐに消え去った。 こんなのやっぱり嫌だ。 男から見て魅力的に見えるなんてそんなのは幻想だった。 痴漢されて思う事はただキモチ悪いってだけ……。 好きでもない男に触られるのなんて最悪……。 どう考えたってそこには汚らわしい欲望だけしかないもん……。 そこに愛はないもん……。 【続く】
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

176人が本棚に入れています
本棚に追加