第1話 記憶の始まり

3/4
前へ
/258ページ
次へ
この日もまれではないのです。 いつものように、6畳程の寝室で遊んでいる部屋には、直子の嫁入り道具だと思われる三面鏡。 今風に言うとドレッサーでしょうね。 その日天気も悪く、遊び相手も居ないので部屋でゴロゴロ… ふと振り返るとそこには大好きなコタツ台が、基弘を誘っているかのようにたたずみ、自然と目に留ったのです。 コタツ台が手招きをする訳ありません。 しかし遊んで欲しいよぉと、今にもしゃべりそうに聞こえたらしく、たどたどしい足つきで向かっているではありませんか。 〔基弘!おい、そこは、あぶないよ!〕 私は彼に一抹の危険な香りがする事をつたえて、その事故を回避しようとします。 しかし、聞えないこの声は無駄。 それに影法師は現世の運命を変える事ができないオキテがあります。 もちろん破ることはご法度。 ・・と、そんな事を考え込んでいるスキに、もう基弘にとって放って置く手はないと言わんばかり すかさずコンセントをマイクに任名。 ちっちゃな手に握り込んだと思うと、コタツ台ステージにヒラリと飛び乗ってしまったのです。 「好きなんだけどぉヘィ!」 決まったと思い、飛び降ります。 ・・・が。 「ごつっ!」 瞬間、頭頂葉へ鈍く熱い痛みが奔走。 〔あーあぁ・・・言わんこっちゃない〕 つい思わず私の口を突いて、出てしまうのです。 こう云う時の痛みはタンコブ系の痛みではない。 熱い稲光が鼻に抜けるでしょうに。 ・・・まさに目から火。 その事故の被害者である三面鏡も相打ち。 アイスピックで氷に突き立てた如く鏡はピシッ!と叫び声。 〔おい!基弘、照人が気付いたらまた叱られるぞ!叩かれないうちに大泣きしとけ・・・はよぅ!〕 スクランブル、緊急事態発生! 頭突きで直子の大切な嫁入り道具でもある三面鏡を壊してしまったのです。 一先ず、ケガの心配より叱られる意識の方が私の頭を支配。 とりあえず泣けと幼児の耳元でそっとアドバイス。 両親も異変に気付き、飛んで来たのは言うまでもありません。 「まあ!あんたどうしたん?怪我はしとらんのん?」 事態を瞬時に飲み込んだ、母・直子の愛は大変有り難いものです。 しかし、衝撃的な言動はこの直後駆けつけた1人息子を怒鳴り叱る父・照人の言葉。 「何しようるか?鏡が割れたじゃろう!」 まるで、つまらないコントのようなセリフの裏側
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加