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世界の全てが紅に染まる黄昏時、それはそこにいた。
道路は紅く染まり、電柱も暗く長い影を伸ばしている。
しかし、それは光の存在を知らないかのような、影よりも暗い漆黒に彩られていた。
それは一言で例えるならば漆黒の獣。
体長は人の背丈程あり、体は狼のような形をし、瞳は漆黒の中で一際青く輝いている。
しかし、体の表面はまるで実体のない炎のように揺らぎ、それが普通の動物ではない事を強く証明していた。
獣は値踏みするように、何かを見ている。
視線の先には、学生服であろう黒い服を着た少年が茫然と立ち尽くし、その横には血に濡れた少女が倒れていた。
少年の眼には、化け物に対する恐怖より驚愕といった感情が色濃く映り込んでいた。
「……何でこんなことに…………」
少年は呟き、そして思う。
ただ、ちょっとした好奇心だったのに……と
ただ、退屈な世界に少し刺激が欲しかっただけなのに……と
こんな化け物に出会ってしまうなんて……。
しかし、少年の気持ちとは反対に、目の前の現実に自分が、今までになく興奮している事も事実だった。
少年はその興奮を胸に秘めながら、もう一度呟く。
「何でこんなことに…………」
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