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彼女は私が追いつくのを待とうとしなかった。
ただの一度もこちらを振り向こうとせず、一人砂場へと走っていった。
砂の上を走るザッザッという音をさせて、軽く息を切らし砂場についた私に、彼女は深呼吸一つせず穏やかに笑顔を向けていた。
その後はただただ遊んでいた。
走り回ったり、お山を作ってトンネルをほったり…。
そして夕方になると、少し遠くから7歳上の兄が私を探している声が聞こえてくる。
私たちは砂場でバイバイした後、その次の日もその次の日もまた同じ日常をくりかえしていた。
ただほかと少し違うなと思ったのは毎日同じ砂場だったことだろう。
ほかにも遊ぶものはあるのに彼女は砂場以外には行こうとしなかった。
それに私たちが遊ぶ砂場は公園の砂場ではなかった。
そのマンションは一階部分が駐車場になっていたが、一区間だけ部屋があるかのように壁で囲われていた。
その壁には一つの扉と子供が通れそうな覗き窓があった。
まぁ覗き窓はトゲのついている針金で塞がれてるから通れはしないのだけれど。そしてその中はただ湿気た冷たい空気と砂だけの場所だった。
ほかの駐車場はアスファルトで整備されてるのにここだけはまるで取り残されたように静けさ漂う寂しい場所だった。
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