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振り向いたときには、既に終わっていた。
五匹の魔物全ては、辺りにその血を撒き散らし、力無く横たわっていた。
青年とすれ違い、少女が振り返るまで、僅か数秒。数秒の間に、この青年は五匹もの魔物をたったの一人で斬り伏せたのだ。
少女は、自分が身震いしていることに気付く。
それが怒りによるものか、恐怖によるものなのか、少女には分からない。
ただ、一つ言えることは――
この男は、間違いなく自分より強い。
この男が、もしも血に飢えた人斬りだったら……
沈黙。硬直。それは数秒の間だったが、少女にはとてつもなく長く感じられた。
ごくり、と唾を飲み込む。
「アンタ、名前は?」
ようやく絞り出した言葉。高圧的な態度。本来は命を助けてくれたことにまず礼を言うべきだろう。
分かっている、分かっている――
だが少女は、この正体不明の男に対して、少しでも上に立ちたかった。
(大丈夫、大丈夫……この男が不審な動きを見せたら……)
ちら、と腰の杖に目をやる。そうなったら私の魔法で……!
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