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けたたましく囀る目覚まし時計の頭を叩いて沈黙させ、私はベットから這い出した。
目を擦りながらトイレを済まし、台所の流しで手を洗いつつ薬缶で湯を沸かす。
隣室の居間。そこの仏壇に入れたてで湯気の昇る緑茶と煎餅を置き、線香を立て香呂脇に有る鐘をチンチンと二度、適当に鳴らす。
母が死んでから8年。毎朝この澄んだ音をさせる小さな物体を叩き続けているが、未だに正式名称が解らない。
遺影の中で微笑む母に「おはよーさん」とだけ告げる。念仏なんか一節たりとも唱えられないので、毎回こんなもんだ。
再び台所に戻り、テレビを点ける。
馴染みのニュースキャスターは本日不在で、ぬるいバラエティー番組が流れていた。
そこで初めて、私は今日が日曜だったという事に気が付いた。
「あ~あ。早起きして損した」
ぶつぶつぼやきながら、急須に残ったお茶をマグカップに移して啜る。
父も妹も、休みの日は昼前まで眠り続ける。
したがって今日は朝食も弁当も作る必要は無い。バイトも休みだ。
こんな日こそぬくぬくと布団に包まり、両眼が溶けるまで寝ていたいというのに……目はすっかり覚めてしまっている。
仕方ないので煎餅をポリポリ齧り、暇潰しがてら朝刊を広げた。
テレビ番組欄と四コマ漫画から目を通す。
一面記事は政治家の汚職問題と、爽やかな少年プロゴルファーの話題。
興味ないのでスルー。二面、三面と適当に斜め読みをして……そして私の目は端っこの小さな記事で止まった。
『市議会は昨年の大型市立図書館の完成にあたり、移動図書館の閉館を決定した。これにより、長い間ちびっ子達に親しまれていた―――』
閉館。
移動図書館の、閉館。
私は台所の隅に一括りにしてあった古新聞や広告束の中から、『今月の市役所からのお知らせ』という小冊子を引っ張り出した。
確定申告はお早めに、老人会主催ゲートボール大会、そんな事が書いてあるページをパラパラと捲り、目的の項目は最後の方に有った。
今月の移動図書館の日程
第一週 県立第三小学校体育館
第二週 元 県立山西小学校体育館
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場所を確認して、自分の部屋に戻ると手早く着替える。
机の引き出し奥から、不要な古い会員証等を乱雑に纏めて詰め込んだ茶封筒を取り出す。
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