🍀スケッチ大会🍀

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🍀スケッチ大会🍀

父は、突然の思いつきで行動する事がしばしばあった。 私が5歳の秋。 ある日のお昼時もそれだった。 「今日は、みんなでスケッチ大会だ❗」 父の気まぐれな号令にもかかわらず、母は4枚の画用紙を用意する。父と母、私と弟の分だ。 当時のアパート暮らしの我が家の前には田んぼと山が一面に広がっていた。テーマソングを聞かれたならば、誰もが童謡の『ふるさと』と答えるだろう。聞かれた事はないので答えた事もないけど… それはさておき4人は前に広がる山々の風景を一生懸命に描いた。父は中途半端が嫌いな男だ。色付けもきちんと水彩絵の具を用いる。 しかし、不器用な上に幼児だった私は下書きの時点で駄作は決定。元来、器用な弟ではあるが3歳の彼にとっても、結果は同様である。 そこで、自動的に父と母の一騎討ちという事になる。何事にも勝敗を決めるのが父の癖である。スケッチ大会という名の勝負。 父と母の一騎討ちが決まった瞬間に私と弟は、才能のない負け犬画家から審査委員へと就任が決まった。それも父の独断による大抜擢である。実に簡単な格差社会… 今思えば父にはそれほど自分の作品に自信があったのだろう。わたしと弟は厳選な審査により、しかしながらいとも簡単に発表した 「ママの方が上手❗」 子供は正直とはよく言ったもので、私達は父に気を使う訳でもなくそう言い放ったし、それは絶対に間違いはないという母の作品だった。 遠近法を巧みに使い、家の前に干してある洗濯物から遠くの山々の景色に至った風景画はまさしく最優秀賞に値する。 父の存在を忘れかけていた時、父は黒の絵の具を手に取った。 そして次の瞬間、自分の大事な作品であるその絵を真っ黒に塗り潰し始めた。
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