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夢を見た。
それは昔、五年程前の事だっただろうか。
四人で遊んでいて突然の様変わりだった。
雷鳴が轟き、豪雨が体を打ち付ける。
5m先も見えないほどの土砂降りの中、四人は必至に帰ろうとしたのだが、今自分たちの居場所さえ解らない。
闇雲に走っていたら、何時の間にか自分は一人になってしまっていた。
『みんな……どこ……!!』
泣けど叫ぼうと雨の音しか聞こえない。
『こわいよ………まま……ヴィヴィオおねえちゃん……』
呼べば誰かが助けに来てくれるのではないか、そんな思いを抱きただ足を進める。
『!?』
一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
感じたのは浮遊感。
崖から足を踏み外してしまったのだ。
落ちる、そう思った時には全てが遅い。
まるでスローモーションの用に崖から落ちていく感じがした。
『…っ!!』
懸命に崖に手を伸ばす、その手を、誰かが掴んでくれた。
雨で滑りやすくなっている腕を、離すまいとしっかり掴んでいる。
『だいじょうぶ、いのりがたすけをよんだら、おれがかならずたすけるから……、かならず!!』
そこで、夢は終わった。
目を開けると、そこは見慣れた自室だった。
「夢、見てたのかな……」
どんな夢をみていたのか思い出そうとしていると、扉がノックされた。
なのはかヴィヴィオだろうと思い、起きていると声を挙げた。
「あれ、起きてる? 珍し~」
顔を出したのはヴィヴィオだった。
いのりは朝が弱い、起こさなければ11時過ぎまで寝ていることがよくある。
「うん、夢を見てたような気がする…」
「夢…? どんな?」
「よく覚えてないけど、崖から落ちそうになって、誰かに助けられた…のかな?」
「そう。それが男の子ならいのりの王子様だね」
楽しそうに笑うヴィヴィオをいのりは顔を赤くして追い出した。
「……王子様は、案外近くにいるかもね……」
部屋を出る際に呟いた言葉は、いのりに届いていなかった。
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