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何ヵ月もの間、私達は毎日会い、お互いを求めあった。可愛いアシュリーは私のもの。私だけのもの…。
良く晴れたその日は双子のメアリー、エイミーと共に街に買い物に出掛けた。可愛い服をたくさん購入する。アシュリーの為に、私の為に。二人の愛の為に。昼食を取る為に煉瓦作りの店に入ると、間もなく双子は楽しそうに話し始めた。
「でね、『薔薇姫』にはたくさんの女の子から熱い視線が注がれていたの。」
「でもでもォ、『薔薇姫』はたった一人の少女しか愛さなかった。」
「貴女達は本当に『薔薇姫』の物語が好きね。」
「うん。」
「もっちろん!」
「ここからが怖い話なのよ、アンリ様。」
「怖い話?」
「そう。実は『薔薇姫』の傍に居た女の子って一人じゃなかったの。」
「え?でも一人だけを愛したって…。」
「うぅん、そうなんだけど…そうじゃなくて。」
「説明下手ね、メアリーは。つまり『薔薇姫』は一度に複数は愛す事はなかったんだけど、一ヶ月、五ヶ月、一年…日が経つ毎に愛する人が変わった。」
「し、しかも!その愛した時間は人によって違うし、以前愛された人は行方不明に…。」
「行方不明に…?」
私は彼女達に合わせて眉を潜めた。
「ズタズタにされて其の血を薔薇にあげたり…。」
「少女の血を吸って若さを保ったり…噂は絶えないわ。」
「そう…。」
若干冷えて来たらしい。背筋に少し寒気を感じた。
帰りは『薔薇姫』の話題は出る事なく、のんびりと馬車で道を進んだ。
途中、アシュリーの姿を見付けた。心が温まる。胸が踊る。あそこは…私達の思い出の場所だ。よく綺麗な夕日を一緒に見た場所だった。二人で、並んで。アシュリーと私が肩を並べて。
「…アシュリー?」
しかし、その時彼女の隣に居たのは私ではない。私は此所に居るのだから。誰?…女の子?見た事がない少女だ。
馬車から飛び降りて私は走った。力いっぱい。
「アシュリー!」
彼女は私に気付いたようだ。私に向かって笑顔で手を振った。夕日よりも綺麗なあの笑顔で。彼女の隣から顔を覗かせて私を見た人が居た。綺麗な顔。東洋人…?真っ黒な髪は美しく真っ直ぐに伸びている。細い眉は程好く丸みを帯び、目の斜め下にホクロが有る。黒く、大きな瞳に吸い込まれそう。私達とは別の、美しさだ。
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