333人が本棚に入れています
本棚に追加
朝になり、目覚めると彼女は立っていた。一度も立った姿を見た事がない。彼女は目覚めた私にゆっくりと…本当にゆっくりと歩いて近付いて来た。私は思わず駆け寄り彼女を抱き締めた。
「アシュリー!あぁ、貴女が歩けるようになるなんて、夢みたい!」
「アンリエッタ、本当に…。」
「その先は言わないで。貴女が頑張ったからなのよ…。」
「でも、まだまだ上手くは歩けないの。当分は車椅子も手放せないって。」
それから数日後、アシュリーは早々に歩く術を身に付けた。
たまに私が車椅子を押して遠くに出掛ける。でも、その内思い出の場所をゆっくり歩いたり…薔薇庭園で駆け回れるはずよ。とっても楽しい毎日。あぁ、今から楽しみだわ。
更に数日が過ぎて、彼女は長距離を歩けるようになったり駆け回れるようになった。
そして…。
「アンリエッタ!此方よ、此方!ほら!」
「アシュリー速いわ、待ってよォ。」
「わぁ…。」
彼女と手を繋いで走っていた。森の中で見付けた建物を見上げて二人で感嘆の声を漏らす。
「素敵な教会ね。」
「でも、全然使われてないみたいよ。」
「そうね。今は皆街に行くから…。それでも、神秘的だわ。」
「ねぇ、アンリエッタ。」
彼女ははしゃぐ私の腕を掴み抱き寄せた。胸の鼓動が高まる。アシュリーの珠玉が私を映し出していた。そう、私だけを…。彼女は私よりも背が高い。いえ、この村で私よりも背が低い女の子は年の離れた賑やかな双子姉妹くらいだ。彼女の細く白い指が私の金糸を絡め取る。紅く、燃える様な髪は彼女が動く度に揺れ、輝く。そして耳元で囁かれた。甘く、繊細で、小鳥が囀ずる様に。
「アンリエッタ、此所で誓いましょう?」
「…な、にを?」
「二人の永久なる愛を。」
彼女の瞳には私だけが映っていた。私の瞳には彼女だけ。この映像を脳に焼き付ける様に、目を閉じた。重なる肌は温かくて、少しだけ汗で濡れていた。唇が、肌が、重なる度に私は心臓が止まる様な錯覚に襲われた。私は意識的に呼吸をする。心臓に酸素を回す為に。そして蜜の中で溺れ死ぬ蜜蜂の様に手足を動かした。絡まる蜜は愛しくも儚い。彼女は直ぐに疲れてしまったようだ。私は彼女を抱き起こして瞼に口付けを落とす。
「お休みなさい、アシュリー。誓うわ、此処に。神の下に。」
最初のコメントを投稿しよう!