Ⅰ.薔薇姫様とアンリエッタ

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  「貴女がアンリエッタ…ですか?」 「え、えぇ。」   流暢な言葉遣いだ。私はアシュリーの腕を掴み人見知りをする様に彼女を見た。アシュリーは私の頭を優しく撫でてくれた。   「アンリ、この子は春香(チュンヒャン)。今日引っ越して来たんだよ。」 「チュン、ヒャン…。宜しくね、春香。」 「皆のお姫様に会えるなんて、嬉しいです。」 「お姫様…?私はお姫様なんかじゃないわ。それに、例え他の人からどんなに求愛されたとしても私の恋人はアシュリーだけだもの。」   アシュリーがまた私の頭を撫でてくれた。猫の様に目を閉じて心地良さそうに掌に擦り寄る。その時チラリと彼女の顔を見上げてみた。   「…え?」 「ん?アンリ、どうしたの?」 「いや、え、と…何でもないわ。」   見間違い…かしら。アシュリーの…彼女の顔に笑顔がなかった。あの、綺麗な笑顔が。何処か迷惑そうで、呆れた様な苦笑いを私は見てしまった。あんなアシュリー初めて見た…。いえ、あれは私の見間違いよね。きっとそう。   「私、そろそろ戻らないと…。」 「うん。またね、春香。」 「さようなら、アシュリー。…と、可愛いアンリ姫様。」   黒髪の少女は華麗に頭を下げて去って行った。アシュリーはその後ろ姿をずっと見つめていたわ。ずっと。                         何?その顔は。アシュリー…どうしてそんな顔をするの?私以外に微笑みを向けては駄目なのに…!どうして笑ってるの?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?   「ね、ねぇ…アシュリー。今夜も私の家に来れる?」 「いや、今夜は…予定が有るのよ。」 「…そう。じゃあ明日は?」 「明日は街に行く。」 「あ、明後日…は?」 「春香に村や森を案内しなくちゃ。」 「アシュリー…!?」   いったい、どうしたの…?アシュリー。何故貴女は私を避けるの?昨日までずっと愛を語らって来たのに。昼夜となく肌を合わせて居たのに。今日の貴女の瞳にはどうして私が映っていないの!?震える声で尋ねてみた。嘘だよ。って笑って欲しかった。君にも休憩が必要だから。なんて、言うんじゃないかと淡い願いを込めて。   「アシュリー…私をもう愛してはいないの?」   私の言葉に彼女が一瞬顔を歪ませた。それがもう答えだった。 そう。そうなの。     アシュリーはもう、私を愛してはいない。    
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