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「貴女がアンリエッタ…ですか?」
「え、えぇ。」
流暢な言葉遣いだ。私はアシュリーの腕を掴み人見知りをする様に彼女を見た。アシュリーは私の頭を優しく撫でてくれた。
「アンリ、この子は春香(チュンヒャン)。今日引っ越して来たんだよ。」
「チュン、ヒャン…。宜しくね、春香。」
「皆のお姫様に会えるなんて、嬉しいです。」
「お姫様…?私はお姫様なんかじゃないわ。それに、例え他の人からどんなに求愛されたとしても私の恋人はアシュリーだけだもの。」
アシュリーがまた私の頭を撫でてくれた。猫の様に目を閉じて心地良さそうに掌に擦り寄る。その時チラリと彼女の顔を見上げてみた。
「…え?」
「ん?アンリ、どうしたの?」
「いや、え、と…何でもないわ。」
見間違い…かしら。アシュリーの…彼女の顔に笑顔がなかった。あの、綺麗な笑顔が。何処か迷惑そうで、呆れた様な苦笑いを私は見てしまった。あんなアシュリー初めて見た…。いえ、あれは私の見間違いよね。きっとそう。
「私、そろそろ戻らないと…。」
「うん。またね、春香。」
「さようなら、アシュリー。…と、可愛いアンリ姫様。」
黒髪の少女は華麗に頭を下げて去って行った。アシュリーはその後ろ姿をずっと見つめていたわ。ずっと。
何?その顔は。アシュリー…どうしてそんな顔をするの?私以外に微笑みを向けては駄目なのに…!どうして笑ってるの?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?
「ね、ねぇ…アシュリー。今夜も私の家に来れる?」
「いや、今夜は…予定が有るのよ。」
「…そう。じゃあ明日は?」
「明日は街に行く。」
「あ、明後日…は?」
「春香に村や森を案内しなくちゃ。」
「アシュリー…!?」
いったい、どうしたの…?アシュリー。何故貴女は私を避けるの?昨日までずっと愛を語らって来たのに。昼夜となく肌を合わせて居たのに。今日の貴女の瞳にはどうして私が映っていないの!?震える声で尋ねてみた。嘘だよ。って笑って欲しかった。君にも休憩が必要だから。なんて、言うんじゃないかと淡い願いを込めて。
「アシュリー…私をもう愛してはいないの?」
私の言葉に彼女が一瞬顔を歪ませた。それがもう答えだった。
そう。そうなの。
アシュリーはもう、私を愛してはいない。
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