第二話

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夕食は、昼間のリベンジを誓い、渾身の出来だった。 「うわっ、どうしたの?」 驚くのは無理もありません。 「今日は刀弥様のご卒業という記念すべき日、腕を振るいました」 量、質、味すべてに自ら満点を着けたい出来だ。 刀弥様が椅子に座ると同時に料理を小皿に盛り、差し出す。 「あっ、ありがとう」 「いえ…、どうぞお召し上がり下さい」 刀弥様が鮭のムニエルを口に運ぶ。 納得する味を作ったつもりでも、この時が一番緊張する。 だが、味は聞かない。 質問するということは主に、満足していない料理を出しているということになるからだ。 それはメイドとしてだけではなく、料理を作れる者として最低限守るべきラインだと思っているからです。 「うわっ、凄く美味しいよ!」 刀弥様のその言葉だけで、満足できる。 それが私であり、刀弥様の正しき道を付き従うのみがこれからの私の道なのです。 だから、私は対特を辞める。 私が紅種だと言えない分、せめて刀弥様を騙すことを一つでも減らしたかった。 夕食は恙無く進み、七品あった料理は綺麗に無くなった。 刀弥様は今、入浴中。 私は食器を洗いながら、今日の任務を考える。 もし、私が相手と同じ境遇だったら…。 もし、私が刀弥様と添い遂げる立場だったら…。 頭を二度、三度振る。 考えるな!と必死に思考の片隅から追い出す。 相手に同情すること。それが一番、狩るものとして、やってはならないことだ。 だから、私は今まで相手のことを考えず、ただ与えられた任務をこなしてきた。 そして、今日これからも私はただ任務をこなすだけ…だけなのに…。 何故か私の中から嫌悪感が消えることはなかった。
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