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「刀弥様、ご卒業おめでとうございます」
「なんか恥ずかしいよ、でもありがとう神楽さん」
玄関で刀弥様を待つこと一時間、刀弥様の笑顔で、待ち続けた疲れなど成層圏を超えて、宇宙まで飛んでいく。
「卒業式はどうでしたか?」
刀弥様の鞄を受け取りつつ、尋ねる。
本来は父兄として参加したかったが、私はメイド、と自粛。
ただし何人かの先生に刀弥様の卒業写真を依頼してありますので、後で引き伸ばして額縁に飾りたい所存。
「う~ん、やっぱり悲しかったかな。クラスの皆とか、先生とか、皆様優しかったし、晃とか数人とはおんなじ高校だけど、仲が良かったメンバーはみんな、別の学校だし」
見れば刀弥様の目の下が赤い。卒業式というイベントに参加したことがない私でも、刀弥様の感情は少なからず理解できる。
「そうですか。しかし、晃様が同じ高校だと、私も安心してお見送りできます」
本心から思う。角坂晃様は刀弥様の一番のご友人。何度か家にお越しになり、本当に刀弥様と仲が良い方です。
鞄の埃を払おうとして、私は鞄に付いた氷の結晶に気づいた。
「外は雪、ですか?」
季節は三月、雪がこの時期に降るとは珍しい。
「うん、凄く寒かったよ」
と言いながら、刀弥様が靴を脱いで上がる。
「ではすぐに昼食のシチューをご用意致します」
万が一風邪でも引かれれば、私は一生後悔する。
「うん、ありがとう」
柔らかい笑顔を振り撒く刀弥様を見て、私は思う。
(本当に明るくなられました)
と。
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