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改めて思い知る。
刀弥様が如何に私とって大事なのかを…。
「でも勿体無いよね」
「なっ何を!?」
刀弥様が手に持っているのは完成するはずだったシチューを入れる皿。
「せっかく作ってくれたんだから、食べないと」
そう言って、シチューを皿に善そう。
量は二人分なのでさして多くはないが、ここからでも分かる焦げた匂いは、食欲を掻き立てるどころか食欲不振に陥りそうだ。
「しっ、しかしそんな物を食べるなど、お止めを。すぐに新しい昼食を作ります」
懇願する。けれど、
「そんなことないよ。だって神楽さんが作ってくれたんだから」
あまりの慈愛の心に涙が出そうになる。色んな意味で…。
結局、刀弥様と私の昼食は焦げたシチューと冷蔵庫のシーフードサンドとなりました。
「ご馳走様」
「…ご馳走様でした」
非常に気が重い。自分で焦がしておいてなんですが、ハッキリと申します。
マズいです。苦味がシチューの味を根底から破壊してしまっていて、香坂神楽の生涯で最低傑作の烙印が捺されました。
なのに、刀弥様は…。
「食べれなくなかったよ」
と、慰めではなく本心から言ってくださいます。
しかし、今はそれがかなりトドメに近い右ストレートです。
私は食べ終わった食器を流し台に置きながら、二度とこんな料理は作らない、と心に誓った
※一年後、彼女はこの誓いを忘れ、刀弥に、焦げた目玉焼きとベーコン、砂糖で握ったオニギリを出すが、それは先の話。
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