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ピンポーン、とチャイムの鐘が鳴る。
玄関に誰かが来たらしい。
「私が出ますので」
刀弥様にそのようなことをさせられないのは勿論、これでも私は敵が多い。
狩るものの宿命というか因果応報というか、昼夜問わず、私に復讐を試みる輩は少なくない。
特に今日は刀弥様が居る。万が一にも刀弥様を巻き込んでしまえば一生、私は後悔する。
「…どなたでしょうか?」
扉を開けず尋ねる。細心の注意と警戒。
そしてその警戒はある意味正しかった。
「井徳運輸局の者です。封筒をお届けに上がりました」
井徳運輸局は対特のダミー会社。そこからの手紙は冥府からの依頼書である。
扉を開ける。誰もいない。ただ一通の封筒だけが郵便受けに投函されていた。
(私の最後の仕事…)
前々から決めていた。刀弥様が中学を卒業したら辞める、と。
私は封筒をエプロンの中に隠し、ダミーの封筒を取り出す。
「誰だったの?」
卒業証書を眺めていた刀弥様に尋ねられる。
「変な宗教の勧誘でした。話しを聞くのも馬鹿らしいのですぐに追い返しました」
「こんな山奥まで来るなんて熱心な勧誘だね」
一瞬ドキッとする。探りを入れられたと思った。
だがすぐにその思考を捨てる。
刀弥様は人を疑うということを知らないというか、無垢というか…つまり今のも本心から相手を気遣っての言葉だ。
「そうですね。しかしあのような勧誘は改心して止めて頂きたいです」
「はは…」
刀弥様の笑顔を見ながら、私は隠した封筒を握り潰した。
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