I want to be near You.

2/9
前へ
/11ページ
次へ
    『だ、大好きだよ……ダ……ダイ……ダイ……スケ……先輩』 電波に乗って、真結(まゆ)の細く可愛らしい声は俺の耳に届く。 例え姿が見えなくても、はっきりと彼女の仕草がわかった。 一一きっと恥ずかしそうに、顔を真っ赤にさせてるんだろうな。 「んー? ちゃんと名前で呼んでくれないのかな、真結?」 少しにやけて、悪戯っぽく言う。 うー、と電話の向こうから小さく唸る真結の声。 『……ダイスケの意地悪。鬼畜。ばか。ばかばかばかばかば一一』 「大好きだよ真結」 真結の必死の抵抗を、俺は必殺の言葉で強引に遮る。 その一言で真結は無口になり、静寂が紅色の部屋を支配した。 携帯電話のライトウィンドウが発光し、点滅している。 規則的に明滅する紫は、俺たちふたりの好きな色。 ふたりを繋ぐ、ちっぽけな証。 真結には、俺の「大好き」が一体どのように届いているのだろう。 仲の良い先輩の冗談なのか。 それともちゃんと言葉通りに、真結の心に響いているのか。 よくは分からない。 『……ダイスケ? 私ね。これから一一』 電話の向こうのアナウンスで、聞き覚えのある地名が聞こえる。 そしてそれと同時に、聴覚を奪い、鼓膜を貫くような轟音。掻き消える真結の声。 「そういうことね」 俺は小さく漏らす。 恥ずかしそうにする、真っ赤な真結の顔が脳裏に浮かぶ。 少しばかり、驚かせてやろう。 真結と過ごした日々を追憶しながら、真結に気付かれないよう、外へ出る準備をした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加