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『だ、大好きだよ……ダ……ダイ……ダイ……スケ……先輩』
電波に乗って、真結(まゆ)の細く可愛らしい声は俺の耳に届く。
例え姿が見えなくても、はっきりと彼女の仕草がわかった。
一一きっと恥ずかしそうに、顔を真っ赤にさせてるんだろうな。
「んー? ちゃんと名前で呼んでくれないのかな、真結?」
少しにやけて、悪戯っぽく言う。
うー、と電話の向こうから小さく唸る真結の声。
『……ダイスケの意地悪。鬼畜。ばか。ばかばかばかばかば一一』
「大好きだよ真結」
真結の必死の抵抗を、俺は必殺の言葉で強引に遮る。
その一言で真結は無口になり、静寂が紅色の部屋を支配した。
携帯電話のライトウィンドウが発光し、点滅している。
規則的に明滅する紫は、俺たちふたりの好きな色。
ふたりを繋ぐ、ちっぽけな証。
真結には、俺の「大好き」が一体どのように届いているのだろう。
仲の良い先輩の冗談なのか。
それともちゃんと言葉通りに、真結の心に響いているのか。
よくは分からない。
『……ダイスケ?
私ね。これから一一』
電話の向こうのアナウンスで、聞き覚えのある地名が聞こえる。
そしてそれと同時に、聴覚を奪い、鼓膜を貫くような轟音。掻き消える真結の声。
「そういうことね」
俺は小さく漏らす。
恥ずかしそうにする、真っ赤な真結の顔が脳裏に浮かぶ。
少しばかり、驚かせてやろう。
真結と過ごした日々を追憶しながら、真結に気付かれないよう、外へ出る準備をした。
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