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真結が遥か遠くの地に越していったのは、昨年で最も雪が積もった日のことだった。
視界が白く霞むほどの花弁雪が舞う中を、俺たちは歩いた。
俺の家から空港までの、本当に短い距離。時間にすれば十数分。
それでも、俺たちは幸せだった。
確かに、俺は真結の隣で、彼女と同じ時間を過ごしていたのだ。
本当の恋人同士のように。
確か、真結は瞳に涙を浮かべ、それでもそれは雪のせいだと言い張っていたことを覚えている。
気恥ずかしそうに俯く真結に、好きの一言も伝えられなかった己が嫌になる。
それまでの俺と真結は、友人以上恋人未満の、非常に宙ぶらりんな関係だった。
先輩後輩だけの間柄ではない。
しかし、それは決して恋仲とは呼べるものではなかった。
俺の中には、確かに真結への恋情があって、だが真結との関係が崩れることを怖れ、俺は曖昧な関係を壊さなかった。
真結がいなくなった毎日は空っぽで、何の意味もなくて。
結局は、真結が隣にいなくなってから、初めて胸に秘めた想いの大きさに一一真結の存在の大きさに気付いた。
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