I want to be near You.

5/9
前へ
/11ページ
次へ
携帯電話を通した真結の声で、はっと回想から引き戻される。 気付かない内に、物思いに耽っていたようだ。 女々しいな、と心の中で呟き、真っ黒のロングコートを羽織る。 『……ダイスケ? 私の話、ちゃんと聞いてたの?』 あぁごめん、と短く謝罪しながら紫色のマフラーを首に巻き、毛糸の手袋をつける。 もう、準備は整った。 『私ね……』 俺は家を飛び出し、真っ白に染まる世界に駆け出す。 『これから、』 雪が混じった風が顔に当たる。 皮膚が切り裂かれる感覚。 それでも決して速度は緩めない。 『……生涯で一番大切な人に逢いに行こうと思うの』 走っているせいか、真結の声に時折ノイズが混じる。 予想していたよりも外は寒い。 夜来の雪は斑となり、未だ街を純白に彩っていた。 積もった銀雪を踏み締める度に、きゅっきゅっと雪が鳴る。 「そうか。なら俺はもう、真結の隣にいることは出来ないんだな」 俺は冷淡な口調で言い放つ。 しかしどうしても、口が綻んでしまい、だが声音が変わらないよう、必死で感情を押し殺した。 『……え?』 困惑した真結の声が、電話の向こうから虚しく響く。 俺は空を見上げた。 直紅の空に四散し、だが、まだ雪を降らせている灰色の雪雲。    この空の下に、真結はいる。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加