近くて、遠くて

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逆転を見事阻止し、ベンチに戻った選手達であったが、空気の悪さは相変わらずであった。 その原因は悠と凉介にあるのであるが、誰もどうしていいかわからない。 悠はベンチに座って帽子を目深に被り、苛立っている事をアピールするように偉そうに組んだ足を上下に揺らしている。 凉介は腕を組み、むっつりと試合を見ていた。だが時折、舌打ちが聞こえてくる。 金井をしても悠と凉介の決裂は理解しがたいもので、解決出来るものではなかった。 まず、二人が喧嘩をしている理由がわからないのだ。どうする事も出来ない。 やはり、4回に起きた本塁打後の一連のプレーで確執が起きたのだろう。 そうだとしたら余計手に負えない。悠と凉介はお互いを野球では認めているが、他では一切認めていない。 野球だけが二人を繋ぐ糸だ。それが切れたなら、再び二人を繋ぐのは並大抵の事じゃない。 元々、仲の悪い二人だ。甲子園を目指しているから仲間として協力しているが、目的が違えば敵同士だろう。 恐らく、当事者の二人を除いて問題を解決する事が出来るのは部内でただ一人。 皆、心の中でその人物に助けを求めていた。 だからというわけではないだろうが、その唯一の人物――加代子が口を開いた。 「あーあ。このままじゃ、負けるな」 それきり、加代子は何も言わなかった。 また沈黙が広がる。 頼りの監督は知らん顔。 ムードは最悪、流れも逃した。 肝心のバッテリーは紛争中。 美咲が悠か凉介、どちらに話し掛けようか迷っていると、状況が突如一変した。
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