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部員達を遠くから見ている一人の人物がいた。
「一件落着……てか?」
その人物とは加代子だった。
火の点いていないタバコをくわえ、安堵の表情で部員達の様子を見ている。
「まったく……一時はどうしようかと焦ったけど、解決したようでよかったよ」
ユニフォームのポケットから取り出した、もう意味をなさない金井の退部届を見つめていると何故だか笑みがこぼれた。
「何がよかったんです?」
突然聞こえた背後からの陰気な声に加代子は跳び上がって驚き、危うくタバコを落としそうになった。
「っわぁ!――ってなんだ神谷か。ったく、存在感が薄いのもほどほどにしとけよ」
「……言い過ぎじゃないですか?」
凉介は土で汚れたユニフォーム姿でいつもの仏頂面だが、わずかに脂汗をかいているようだ。
なぜか大合唱が始まった部員達の輪を凉介も見ていた。
「金井、熱下がったんですね?」
「そ、そうみたいだな。いやーよかったよかった」
「いや、本当によかったですよ。早く治って」
「そうだなー……」
凉介の口ぶりは明らかに何かを核心していて疑っている。
「ところで監督、それは?」
凉介は加代子の持っていた退部届を指差した。
「ん?これか?」
すると加代子は、ライターを取り出して火を点け、退部届の角に火を移した。
茶封筒の退部届はみるみる内に燃え上がった。
加代子はほとんど炎になった退部届を空中へと放り投げた。
「――で、なんだっけ?」
「いえ……気のせいでした」
加代子はそれを聞いてニカっと笑い、タバコに火を点け、煙をおいしそうに吸い込み、吐き出した。
「間違っても、遠回りしても、足を止めても――戻ってくりゃいいのさ、若い奴らはな。尻拭いくらいは大人がやってやるさ」
加代子は空に吐き出した煙に向かって呟いた。
このあと、加代子が燃やした退部届が原因で起こったボヤを部員全員で消火した事については触れないでおく。
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