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金井がセカンドのポジションからニタニタと笑みを浮かべながらマウンドに走ってきた。
「おーい。何やってんだよ、二人共。お互いの口にご飯粒でも付いてたか?」
部員同士の喧嘩の仲裁役はいつも決まって金井だ。
まるで絡みあった糸を解くように、くだらない冗談を交えながら場を和やかにして、仲を修繕する。
それは悠と凉介の喧嘩であっても同じだった。
「……」
「……」
「……んん?」
悠と凉介はまるで金井などいないように睨み合ったまま。
そこで金井はいつものようなただの喧嘩ではない事を感じ取った。
「なんだよー。ご飯粒だけじゃなく、鼻毛も出てるのか?もしかして歯に海苔も?」
「……」
「……」
いくら和やかに話し掛けても二人は反応しない。二人の眉間だけが深くシワを刻んでいく。
どうしたものかと金井が困り果てていると、異常は他の部員にも伝わっていたようで、水野や直太郎、柳浦が揃って心配顔でマウンドに駆け寄ってきた。
「おーい。どしたー?」
水野が声を掛けても悠と凉介は見向きもしない。直太郎と柳浦はその様子を見て、金井を見た。金井に説明を求めているらしい。
二人が起こした喧嘩のために仲間がこうして集まっているのにその当事者達がこの態度。
その姿は金井には「試合がどうなろうが知ったことか」と言っているように見えた。
そう感じて金井は表情を変えた。
それは清心高校野球部の副部長としての顔だった。
「あのさ。いつまでもお前らのくだらない喧嘩で試合止めてらんないの?分かる?」
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