近くて、遠くて

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手元のスコアなど持っているのを忘れて、美咲は心臓を潰される思いで試合を見ていた。 ベンチにいても、甲子園への思いは同じである。 いかなる努力で彼らがグラウンドに立っているかを知っている。 その努力が通用しない瞬間なんて見たくないはずだ。 迷い、悩み、マウンドに集まる彼らを見て美咲は思った。 このままじゃいけない――。 美咲が助けを求めて右後ろの加代子を見ると、加代子はただ黙って試合を見ているだけだった。 (なんで監督は黙って試合を見ているだけなんだろう?) 伝令の一つくらい送ってもいいんじゃないか? 美咲はそう思い、加代子に提案してみる事にした。 「監督。このままでいいんですか?伝令とか、送った方がいいじゃないんですか?」 「いや、いい」 加代子の答えは美咲が予想したよりもよっぽど冷たかった。 「何でですか?きっと皆、監督の指示を聞きたいと思いますよ」 加代子は吊り上がった目をグラウンドに向けている。 「このぐらい自分達で何とか出来なきゃ甲子園なんて行けねぇよ。特にバッテリーはな」 あくまでも淡々とした口調だった。焦りはまったく感じられない。 「誰も割って入れない、第三者には理解出来ない関係。グラウンドの中での特別な距離。だから全部、自分らで解決しなきゃ、バッテリーとは呼べない」 獅子は我が子を千尋の谷へと突き落とす。 もっともな言葉だったが、どこまでも冷たく美咲に聞こえた。
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