私と佐伯さん

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なにやら忙しくなってきたみたいだ、タイミングを逃して動けないでいる。 「こらっ佐伯!つったって無いで早く座れ!いいか?これから言うことを、社内報のテンプレに流せ!」 「は、はい!」 「この度、我が社の華である早野 枢さんが産休をとる事になった。これは喜ばしいもので悲しむべきではない。なお、枢さんの幸せを喜ばぬ者はファン失格としファンクラブから除名する。総務部長 兼 枢ファンクラブ会長 長外 総実。…打ったか?」 「…はい。」 佐伯さんは半分呆れ顔で答えた。 「うし、印刷して各部に配布と掲示。高浜は俺と外会員に配る。いいな?」 「はい!会長!」 日本人はそう熱くならない人間が多くて楽だと思っていたけれどたまにこう言う人間がいる。 ファンは怖い。 ふと、彼女は社内報の印刷待ちをしているようだ。 「佐伯さん、さっきはありがとう。」 「いえ、そんな。」 そう、照れくさそうに笑う口に見える八重歯が幼く見せるのか、彼女は子猫のように愛らしい。 「お礼がしたいのだけど。…今夜空いてます?」 「えっあ!空いてます!」 「じゃあ、今夜帰るときに声をかけてもらえますか?」 「はい!」 少し赤くなった佐伯さんに手を振り仕事場に戻る。 いまどき珍しく素直で可愛らしい娘だなと思った。
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