15人が本棚に入れています
本棚に追加
総務部の空気は異様なまでに思い。
「産休かね?」
総務部長はもう一度私に聞き返す。
「はい、もっと早くお話すればよかったのですが。」
「これは死者が出るかもわからんな。」
総務部長は冗談めかした口調で言ったのだが、その表情は実に険しい。
「枢(かなめ)さん社内でかなり人気があるから。」
男性社員の声が聞こえて振り替える。
ちなみに、枢と言うのは私が名乗っている偽名である。
総務部のメンバーは青味がかって見えるほどに重く濃い空気の中にいる。
「ファンクラブの会員だって、二桁じゃ利かないくらいいるのに。」
「またまた、この社屋に百人も人間はいないじゃないですか。」
私は苦笑しながら答える。
「そうそう君の人気は馬鹿には出来ないんだよ、枢くん。」
総務部長の重々しい声が聞こえる。
「支社はもとより取引先の会社にまで君のファンがいるんだよ。君の休暇は社の損害、取り消してもらいたいくらいだね。」
勝手すぎる言い分だ。
「部長も皆さんもいい加減にして下さい!有給休暇をとる訳じゃない、産休をとるんですよ!」
二十代半ばくらいの女性社員がしびれを切らし立ち上がって叫んだ。
「佐伯くん、だからショックなんだよ。」
「何言ってるんですか、子供が生まれる。枢さんの幸せをよろこびさえすれショックだなんてファン失格ですよ!」
総務部長は一瞬、驚いたような顔をすると直ぐに総務部メンバーに指示をだす。
「すぐ社内報の号外を作って配れ。」
「っ!我が社の社内報は社長の承認がないと…。」
「いらんよ。奴は所詮、会員番号56番の下っぱだ。」
最初のコメントを投稿しよう!