二章 ー 十日くらいなら余裕じゃない? ー

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一月二十六日(土) 事の発端は、私の姉が一週間の旅行先からアパートへ帰ってきた時に起きた事件であった。 姉がドアを開けると、トイレから水の音がした。それも滝壷付近で感じるような、ごうごうという音。 驚きトイレの扉を開けると、なんとトイレの水が大量に流れ続けているではないか。 もし一週間この状態だったとしたら、水道代の多額請求はさけられない。透明人間が用を足し続けている訳もなく、姉はテンパりながらも原因を追求した。 理由はすぐに判明した。 姉は水道代を節約するために、タンクにペットボトルを入れていた。そうするとタンク内の水かさが増し、流す水が少なくて済むのだ。 しかし、調子に乗ってペットボトルを入れすぎて、ペットボトル同士に挟まれたタンク内のストッパーが外れてしまったらしいのだ。 結果、このような状態に。 水道代を節約しようとした為に水道代がかさむはめになるとは皮肉すぎる。そしてマヌケすぎる。流石は私の姉だ。 ここまでは笑い話だったのだが、姉が慌てて水道局へ電話すると、受け止めがたい事実を宣告された。 水道代が、今の時点で、 八万円いってます と。 これには流石に同情した。ライオンの口からお湯が出る大理石のお風呂に入っている金持ちですら、一週間で水道代を八万円使うことはないだろう。何なら姉の家賃よりも高い。家賃<水道代なんて泣きたくなる。 泣きたくなる、というか姉は泣いた。次の日会った姉は、白玉を二つくっつけてきたんじゃないかと疑うくらいぷっくり瞼が腫れていたのだ。そしてこう教えてくれた。 「知ってる?人って本当にやるせなくて悲しい時は、声を押し殺して泣くんだよ。」 かくして姉は、無駄な水道代を稼がなければならない事態に追い込まれた。 その為に企画したのが、今日行われた「フリーマーケット」への出店だった。
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