二章 ー 十日くらいなら余裕じゃない? ー

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姉の為に寒い中露店販売を手伝うなんて、私はなんて優しいのだろう。自分で自分を恋人にしたい。 売ってやるぞという固い決意と、大きいトランクを二つ引っさげて、某神社内のフリーマーケット会場へ。 しかしここで先制パンチを食らう。 七店しか出店していないのだ。 割と遅めに行ったにも関わらず七店。一言で言うならば「閑散」 当然お客さんも少ない。少ないというか、いない。 更にもう一つ、数少ないお店を偵察していると、売っているものが古書にレコード、壷に鎧兜・・ 完全に場所選びを間違えた。 ここ、私達の年代が来ちゃいけないとこだ。 R60の会場にやる気をそがれた私達だが、徐々に増える出店者とお客さんに、何とか稼ぐ気力を復活させる。 フリマといったら値切りが基本だ。色んな人と値切り交渉をするのが楽しかったりもする。 しかし今日は一人とんでもない値切り客が現れた。 恐らく小学校四年生くらいだろう。交換日記の内容に一喜一憂していそうな女の子が、三百円のクッションと三百円のニット帽を二つ突き出してきた。 「安くしてよ。」 いきなりのタメ語にカチンときながらも、お客様は神様と言い聞かせ笑顔を繕う。 「三百円が二つなのだけど、まとめて買ってくれるなら五百・・」 「三十円でいいでしょ?」 大胆過ぎる。 更には勝手に持っていこうとしている。流石に止めたが、プライベートで出会っていたらこの子に白目剥いてメンチ切ってただろうね。 余りに来ない客におかしくなった姉と私は、神社の境内まで響く声で呼び込みをする。押し売りにも近い状況だ。 「安い!質が良い!センスが良い!いきが良い!だから買って!」 そんな私達に向けられる目は「どうでも良い」だった。 それでも懲りずに続けていたら、立ち止まってくれる人が増えた。笑ってくれて買ってくれた。 「その服凄く可愛いんですよ~」 と薦める姉に対して 「じゃあ何で売りに出すのぉ?」 と意地悪く返すお客さんに更に 「水道代が払えないんです・・」 と泣きつく姉。同情で買ってもらうこのパターンで売上を伸ばしていった。 最終的には隣のお店の店員さんに「売り方の勉強になりました」と頭を下げられるという偉業を成し遂げたのだ。
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