一章 ー三日坊主の壁ー

4/7
前へ
/164ページ
次へ
取材後、私はあるものを買おうと街を歩いた。 心折れそうになる凄まじい向かい風に、物欲という盾を掲げて立ち向かっていく。 耳が半分ほどちぎれた頃、鄙びたおもちゃ屋さんを発見した。 あまり期待は出来ないが、もしかしたらここにあるかもしれない。そう思いドアを開けた。 すると、目に飛び込んできたのは欲しかった品!これは運が良い。早速手に取りレジへ行こうとした時、私は初めて店内を見渡した。 所狭しと並ぶオモチャ達の殆どは色褪せていたが、どれも懐かしくて愛おしい。 ロボットや車のプラモデル、お人形にままごとセット、積み木。 私が子どもの時、泣いてダダをこねても買って貰えなかったもの達が、今はうっすらとホコリをかぶって置かれているのが切なかった。 「古いでしょう?」 そう言って私をハッとさせたのは、店員のおばさんだ。 「今じゃこういうオモチャは売れないの。売れるのは電子ゲームだけ。」 おばさんはどことなく寂しそうで、そしてその寂しさが「オモチャが売れない」寂しさではく、「オモチャが必要とされなくなった」寂しさであることくらい、初対面の私でも分かった。 今の時代は、親切に全て作り上げられた遊び道具でしか楽しめない子が多い。説教を垂れるつもりなぞないが、私が子どもの時は、ヒントが少ない遊び道具でも十分に楽しむ事が出来ていた。 例えばなわとびが一本あったら、なわとびとしてだけではなく、それで本や服を上手に縛る競争をしたり、外に出て電車ごっこに使ったり、マンションの裏の空き地へ持っていきピンと伸ばして立ち入り禁止のしるしにし、空き地を秘密基地にしたり出来たのだ。 こうやって創造力を養うのが「オモチャ」の魅力だったはずなのに、電子ゲームのように、ただそれだけの用途でしか楽しめないものが溢れかえった今を、私は遺憾に思う。 「ごめんなさいね、変な話を。」 おばさんは慌てて私に謝った。私はかぶりを振った。とんでもない、このお店にはもっともっと頑張って欲しいって、丁度思ってたんだから。 そうして私は、さっきから握りしめていた目的の品をレジへと出した。私が欲しかったもの。それは、 「大人のDS顔トレーニング」 思いっ切り電子ゲーム! いやだってまさかこんなノスタルジックな想いに浸るとは考えもしなかったから! 肌の弾力二十五パーセントって宣告、結構深い所まで響いてたから! おばさん、何か、ごめんなさい。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加