忍び寄る恐怖

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忍び寄る恐怖

  あれからどのくらい歩いただろうか──直人は、時々携帯電話で時間を確認しながら、ひたすら夜道を歩き続けていた。 行きの道程とは違い、一人で歩く帰りの道程は何故か無性に遠く感じた。 やがて、直人はアパートの前まで辿り着くと、見慣れないアパートの外観に違和感を感じ、暫くの間無言で建物を眺めていた。 このアパートが今夜から自分の住まいになるということは既に理解しているつもりだったが、やはり、実家で家族と過ごした日々を思い出すと、とても憂鬱な気分になってしまう。 直人は疲れきった足に笞を打ちながら二階へ続く鉄製の階段を駆け上がると、ジーパンのポケットから取り出したカギで玄関の鍵を開けた。       ガチャ       ガチャ      カシャンッ! ドアを開き、適当に靴を脱ぎ捨て、畳み部屋へと向う。 部屋一面、荷物の入ったダンボール箱で足場は埋めつくされており、唯一部屋の真ん中辺りに一人分の睡眠スペースがあった。 「仕方ねえな……今夜はあのスペースでゴロ寝でもするか……」 直人は自分を納得させるようにそう呟くと、ふと、部屋の中をぐるりと一周見渡した。
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