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パッ……
突然、トイレの個室に明かりが灯った。
明かりは、戸の上部にある磨りガラスを透けて直人の顔を照らし出している。
「トイレの蛍光灯だけ……取り外されてなかったってわけか?」
直人は平静を装ったようにそう呟いてはみたものの、内心は救われる思いだった。
何しろ先程までの照明器具といったら、上着のポケットに入れてある携帯電話の画面から放たれる淡い光りだけだったからである。
直人は、とにかく中へと、外灯に群がる虫のようにトイレの明かりを求めてドアノブを引いた。
ギギギィィィ―-……
相変わらず錆び付いた音が鳴り、戸は重く開けづらい。
だが、今の直人には、トイレの個室を照らし出す100ボルト用の電球を見上げることの方が、余程大事に思えた。
昼間は入ることさえ拒みたくなるようなトイレの個室だったが、今夜に限り、直人には居心地のよい空間に思えた──が、ふと、あるものを見て妙な疑問が芽生えた。
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