忍び寄る恐怖

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  そもそもこの物件は仲介業者が絡んでいない為、建物の管理者である古川と直接会って契約を交わさなければならなかったのだが、どうしても古川の都合が合わないということで、書類を郵送するという手段を使う以外に契約を交わす方法はなかった。 その為、直人は古川と直接会う機会が一度もないまま契約を終えてしまったので、少々不安になってはいたものの、引っ越し作業の際、アパートの一階中央辺りの外壁に貼付けられていた貼紙を見て考えが変わったのだ。 その貼紙とは、アパートの入居者を募集する為に古川が作成したアピール用紙で、わざわざ丁寧にラミネートまでされており、用紙の隅の方には古川自身の顔写真まで載せられていた。 要するに、直人はその貼紙に古川の顔写真、名前、住所、電話番号などが載せられていたことで、ここまで自分のことをおおっぴらにしている人物なら、変に勘ぐる必要もないだろうと警戒しなかったというわけだ。 だが、借りた部屋へ実際に荷物を運び込み、入居初日の夜を迎えた今現在に至ってみると、やはり、このアパートに対する不信感と古川への警戒心は強まる一方だった。 直人は、妙な胸騒ぎを静めようと胸元のポケットから取り出した煙草を一本くわえると、天井の電球を見上げながらジッボライターで火を点けようとしたが、あるもの見て、その手を止めた。
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