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(それにしても……さっきから何の動きも見せねえっていうのは、ちょっと変じゃねえか?)
侵入者の足音が消えて5分以上も音沙汰がないことに直人は不信感を抱きはじめている。
その後も数分ほど相手の様子に聞耳を立て続けていたが、全くといっていい程に気配が感じられなかった。
(……もしかして、もう出て行っちまったとか?)
直人は次第にそんな風なことを考えはじめると、みるみるうちに緊張感の途切れた面持ちになってしまい、その後はトイレの戸を呆然とした様子で見つめ続けるだけだった。
その結果、直人は建物の歪みから出来たと思われる隙間を発見した。
その隙間は、戸と壁の間に5㎜程の空間を生み出している。
(……あの隙間から向こう側の様子を探れんじゃねえのか?)
そう思い立った直人は壁にそっと手を押し当てると、覗いていることを相手から悟られないように注意しながら隙間を覗き込んだ──
「……なっ!?」
──が、しかし、予想もしなかった光景に驚いてしまい、思わず声を漏らしてしまった。
また、反射的に体を後方へ退かせたことで壁に右肘を打つけてしまい、右手に持っていた鉄パイプを床へ落としてしまった。
カランコロン……
(……しまった!)
そんな直人が目にした光景──それは、戸の反対側でひっそりと息を潜めながら、直人と同様に隙間を通してこちら側の様子を覗き込んでいる人間の姿だった。
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