【第一章】 引っ越し

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  部屋の構造は、玄関に入ると真っすぐ伸びた人幅程度の廊下があり、その突き当たりにトイレの戸が見える。 そのトイレの戸を向かって左手側に狭い炊事場があり、その逆側は六畳の畳部屋が広がっている。 そして、その畳部屋と廊下を遮る襖があるのだが、新居者が入ったというのに張り替えられた形跡は無く、煙草の脂や台所から漂って付着した油の染みやらで黄色く薄汚れ、挙げ句の果てには何か先の尖ったような物で突いた穴が転々と続き、不気味さを感じさせた。 そして、極めつけは風呂場。 それは何故かと言うと、風呂場と廊下を行き来する場所には戸が無いからだ。 いや、正確に言うと以前はあったであろう戸が何かの弾みで壊れ、撤去されたといった感じだ。 その証拠に、戸があったであろう壁周辺には蝶番で留めてあったようなネジ穴がいくつかある。 そのうえ風呂場は玄関の真隣に位置しているので、このまま風呂へ入れば玄関に置いてある靴は飛び湯でびしょ濡れになってしまうはずだ。 直人は他にも色々と気になる点はあったが、トイレの前へ辿り着いたことで尿意をぶり返し、そのままドアノブを右手で掴むと一気に手前へ引いた。
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