【第一章】 引っ越し

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                   ギギギィィィィー-…… 建物が歪んでいるせいからか、トイレの戸は開きが悪く錆び付いた音が鳴った。 付け加えて言うと、力を入れて引かなければ開かないという始末の悪さ。 「つーか……思ってた以上に最悪な物件じゃねえか? それに、いくら家賃が安いからって、ここまで手入を怠っちまってもいいものなのかよ?」 直人は誰に言うでもなくそう愚痴をこぼすと、補強や修理が必要そうな場所を頭の中で簡単にリストアップし、その修理にかかる費用を大まかに計算してみた。 どう安く見積もったとしても、十万そこらはかるく超えそうである。 直人は溜め息混じりでトイレの個室へ籠ると、そこで目にした光景に、もう一度溜め息をついた。 そこには、用を足すことを拒みたくなるような古くて薄汚い和式の便器があった。 直人は沸き起こる拒否反応を押し殺すようにその便器へ跨がると、そのままゆっくりと腰を下ろし、このアパートを安易な気持ちで借りてしまったことを後悔しはじめた。
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