【第一章】 引っ越し

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  ――というのも、直人はこのアパートを借りるとき、部屋の下見に来ることもなく、ネットで紹介されていた情報だけを頼りに契約に至ってしまったからだった。 だが、実際に引っ越しに来てみると、専用の駐車場からアパートまでの敷地にかけて、手で掻き分けなければ進めない程の草が生い茂っていたので、先ずはその草を刈る作業から始めなければならなかった。 そのうえ、部屋の中へ入ったは入ったで、埃や黴っぽい臭いが充満していた為、結果的に部屋の換気と掃除もする羽目になってしまった。 つまり、『敷金礼金一切無し!』といった見出しには、こういった裏付けがあったというわけである。 直人はそういったことも全て含めて、今一度別のアパートへの移転を脳裏に過ぎらせたが、家賃を一月分振り込み、荷物まで運び込んでしまったこの状況を考えると面倒臭さの方が上回った。 結果的に、このアパートでの生活を暫くの間辛抱し、仕事に慣れて落ち着いた頃、もう一度引っ越しし直そうという結論に至ったところで、ふと、目の前の黄ばんだ壁を見つめ、用を足し終えた満足感から天井を見上げた。 すると、そこには何故か、西暦の書かれていないカレンダーが飾られてあった。
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