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「……それでね~同僚の加奈が~来月~結婚するのよ~」
一通り酒を飲み交わし(居酒屋の店主が酒飲むなとは、突っ込まないでほしい。あまり客もこないし、問題ないでしょう)、談笑し終わった後、美弥子さんが言った。
「おめでたいじゃないで…」
「めでたくない!!このままじゃ、私行き遅れるわよ。どこぞのドラマの女みたいに!!ああ~、縁結びの神!!とっとと私にいい男紹介しろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
美弥子さんの叫び声が店内にこだまする。まるで、珍獣のおたけびだ。
「あんた今失礼なこと考えなかった!?」
「いいえ」
閻魔大王が聞いたら、僕は舌を抜かれるだろう。
「美弥子さん、僕と同い年でしょう。なら、気にする必要ありませんよ。何なら、僕がもらってあげてもいいですよ」
冗談なのだが、かすかに期待を込めて、言った。前述のとおり彼女はかなりの美人だ。そんな彼女が店の常連………意識しない男の方が珍しかろう。
彼女の顔がわずかに上気した。……これは酒のせいか……それとも………。
「お断りよ。あんたみたいな、顔も性格も普通の、いい人止まりランキング25年連続ナンバー1の、客のこない三文貧乏居酒屋の店主が夫になるなんてこっちから願い下げよ」
………どうやら、酒のせいらしい。
「…………………………………………………………………………すいません、泣いていいですか?」
そう言いつつも、僕の頬に冷たい何かが流れ落ちた。
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