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蛙の前に出ると、エニケスはその刃を目玉に向かって振り下ろす。
――だが、その蛙は巨体のわりに素早く、瞬時に後ろに跳び退く。
そしてその大きな口を開けると、太くて長いその舌を、エニケス目掛けて突き伸ばす。
エニケスはその舌をぎりぎりで横にすり抜け、舌を切り落としつつ本体に突き進む。
そして蛙の中心に位置するその目に刀を突き刺し、横になぎ払う。
「先ずは二つだ」
――蛙はその一撃に少し怯んだが、また横に跳び退くと、今度は頻りに低い声で鳴き始めた。それに呼応するかの様に、辺りにいた全ての蛙たちも一斉に鳴き始める。
そして少しした後、顔を上に向けたかと思うと、その低い呻き声は一斉に甲高い叫び声に変わった。
「うっ!」
「くっ!」
その超音波の如く甲高い音に、二人は顔を歪める。
「うぅ……これ、頭の中に……直接響いてきやがる……」
ラドは耳を塞いだが、それでも音が和らぐ様子は全く無い。
「ふっ……これで、終わりだ……!」
エニケスは堪えながらも気合いで駆け出すと、残りの全ての目を、三度の強力ななぎ払いで潰した。
「ブゥーン………」
――七つ目の蛙は、その攻撃に崩れた。
古びた刀でもこの切れ味と威力を誇るのは、エニケスの技量の為せる業だろうか。
そしてそれに恐れをなしたのか、その後ろにいた蛙たちは一斉に鳴き止み、次々と森の奥へと逃げていった。
「他の魔物がいなかったのは、あの蛙たちの餌になっていたからだろうな」
何よりも先に、振り向き際に、エニケスはそんな事をかました。
「あ、あぁ……てかさっきからすんごく頭が痛いんだけど……」
「ああ、俺もだ。原因はあの蛙の鳴き声だろう」
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