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姿勢を低くし、一気に間合いを詰め、右手でみぞおちにせいけん突きを繰り出す。
そこを狙ったのは、相手の動きを止めるのに一番有効な部位だったからだ。
完全に油断していたエニケスに、その攻撃は入った――と思われた。
しかし、彼は既に、その場にはいなかった。
「危ない危ない。危うく一撃でやられるところだったよ」
気さくな声は、ラドの背後から聞こえてきた。
(くっ、後ろか……!)
ラドは咄嗟に振り返る。
「いきなり殴ってくるなんて、君、本当に野蛮だね」
「うるせぇ! お前だって刀向けてきただろうが!」
「あれは冗談の類なんだけどな~。やっぱりあの鳴き声を聞いてしまった以上、冷静でいるのは難しいのかな?」
「何のことだ!?」
「何でもないよ。それよりこれが最後の警告だ。諦めてボクの言うことに従ってほしい。分からないようなら、今度は本当に――うざいから、斬るよ」
「はっ、俺はこう見えても今まで喧嘩で負けた事は一度もねぇんだよ。だからお前にだってぜってぇ負けねぇ!」
「――じゃあ、今日が初めてだね」
ラドの最後の言葉を無視したエニケスは、そう言うと瞬く間にラドの目の前に現れて、颯爽とこう言った。
「君が負けるのは!」
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