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春の肌寒い季節にこの海岸に鷹島涼は一人で立っていた。
時折吹く海風に首をすくめながら、ただ打ち寄せる波を見つめていた。
「やっぱ、まだ寒いな~あの頃は寒さなんて感じなかったのにな」
何度目かの海風に一人つぶやく。
(あの頃はただ海が見たいって気持ちが大きかったから)
波の音に混じって涼にはそう聞こえた。
「ハハ。無謀だったよな~」
だれもいない海岸に涼はまた問い掛ける。
(でも毎年こうして来てくれるじゃない)
クスクス笑いながら雨宮玲奈がそう答えているような気がした。
「玲奈と約束したからな~二十歳になるまでずっとここにこようって」
涼はポケットから小さな貝殻を取りだし、澄んだ青い空へと高くかざした。
(そうだね)
その声に対して涼は小さくうなづいた。
「今年もきたぜ…玲奈…」
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