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【男性視点】
涙で濡れた私の頬に、私は手を添える。
隣で眠る貴女の指に、命ある私の指を絡ませた。
心の迷いはもう消えたと言い聞かせ、目の前を見るが、その視界も揺らぐ。
冷たくなった指に息をはくが、その息は溜息だった。
赤子をあやす昔の私たちの仲は愛情がこもっていた。
果てのない遠くを見ると、止まることなく貴女が写り揺れた。
「ねぇ見て。手を握り返してくれるの。」
嬉しそうに笑う貴女の手は儚い花びらの波に、散っていく斑雪のよう。
【女性視点】
夕暮れ時になって、貴方を迎えに行く。
我が子を抱いているのに、貴方が気付いてくれない日々は幾度となく訪れた。
あと少し、もう少しだけでいいですから…と願う。
貴方が心配で成仏できない私自身から、羽ばたく強さを!
【男性視点】
風通る道を抜けると清らかな二人がいた。二人に手を差し伸べるが遠く。
貴女が微笑み、初めて私は笑い、幸せの意味に気付いた。
数々の思い出を掻き分けて見つけた貴女が私に触れようと自らを近寄らせるがすり抜けてしまう。
広がっていく虚無感と幾重にも重なる羽をつけた貴女が、私たちの子の声と昇っていく。
静かにただ私自身の手を握り、「どうして逝くの?」と問わずに、ただ「さよなら」と言った。
美しい微笑みの貴女が空へ昇っていった。
大空に昇る私の深い吐息に、不安の雨がかき消された後、きれいな空を見上げ、私は知った。
本当の幸せの在り方を。
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