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「あの子はいつか帰ってくるわ。頭に神の証をつけて。」
髪の長い女がつぶやいた。
「だってあれは・・・私があの子に与えた最高の幸福なのだから・・・。」
くすりと女は笑う。
「あの証は・・・ただの飾りじゃなく・・・あの子を覚醒させるものなのだから・・・。」
女は笑った。気が狂っているくらいに。
「あははははは!!今も!今もあの子の証が!空を仰いでいるわ!!」
―それは数年前のことだった―
彼女は薄汚い商人からある噂を聞いた。
「出産前にある術を施すと、神の子となるらしい。」
女は昔から重い精神病を患っていたせいか、神の子の噂を信じた。
しかしその噂は、箒星のごとくいろんな場所から流れ流れて伝わってきた噂であった。
「しかしその術とは呪術である。発動者が不治の病で死ぬかもしれぬ。」
そう商人はほざいた。しかし女の決心は揺るがなかった。
母の正気は渦を巻いて狂気へと変わった。
人の来ない恐ろしい山で呪術を行った母・・・唱え終えたとき、僕が生まれた。
母は狂気そのものだった。しかし僕が生まれたときに言ったことは・・・。
「お前の生きたいように生きればいい。お前の生きる調律は自分であわせろ。」
と。
しかし母はまったく僕の面倒を見てくれなかった。
僕が泣いているのに母は構わず爪をかじりおびえていた。
「もはや神に信仰し、神の威徳にすぎるほかにはないの!!」
と言っていた。
あぁ・・・残月にお祈りをしても帰ってくるの返事は・・・。
「寄らば大樹の陰だ。身を寄せるならば元が安全なのだ。」
としか帰ってこない。
「お前は誰よりも母に愛されたいのだろう?」
確かに僕は母に愛されたい。しかし僕は母に見捨てられている。
母は戯言を呟く。舌を出しながら・・・。
周りから感じる千の死霊の視線が怖くて・・・泣きながら月に祈った。
『母を元に戻してください。』と。
月の返答はとても残酷なものだった。
「お前の母より神に近きお前、神となったお前は夜空の月光を用いて千の証を頭に刻み付けるのが望ましい。」
「ならばお前が呪術を使えばよいのだ。」
と。
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