右京という男の日記

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 書斎は、元々は今は亡き祖父の部屋だったらしく、読書家だった祖父が集め揃えた歴史文学や図鑑、アルバムなどが所狭しと本棚に詰め込まれている。きっと祖母が整理したのだろう。本は全て種類、本のサイズ、著者別に分けられ、綺麗に並べられていた。 「そういえば…」  私はいつもこの部屋に入る度に、小さな違和感を覚える。  その理由は、大きな本棚の隣、部屋の隅に置かれた、書斎には少し不自然な小さな和式箪笥だ。それを見る度に、私は何故か、そこから掃除を始めたくなってしまう。 「やっぱここからだよな」  さっそく雑巾を絞る。冷えきった水は一瞬のうちに私の指先を痺れさせ、思わずはあっと息を吐いてしまう。雑巾掛けは早めに終わらせないと心臓に悪そうだ。  少し強引にごしごしと上から拭いていく。あまり雑な掃除はしたくなかったのだが、あまり長時間雑巾を握っていたくも無いし、箪笥一つだけに時間を割くわけにもいかない。  素早く、かつ綺麗に…私は少し乱暴にぐいぐいと雑巾を押しつけ、箪笥を拭き続けた゜   カタン 「?」  側面を拭き終えようとした時に、何かが落ちる音がした。箪笥と壁の間に何かが落ちたらしい。しかし、箪笥の上にそれらしい物は置かれていなかったはずだ。  前から何かが挟まっていたのだろうか? 好奇心に駆られ、私は箪笥を少しだけずらし、壁と箪笥の間を覗き込んだ。  暗い影の中に、薄く四角い何かが挟まっている。本…いや、ノートか? 私はさらに箪笥をずらし、その隙間に手を突っ込んだ。    手にしたそれには薄い文字で、「日記」とマジックで書かれていた。 「右、京?」  誰の物なのかが気になり、裏を見てみたら名前らしき文字が書かれていたが、鉛筆で書かれたそれは文字が掠れ、辛うじて右と京の二文字しか読み取ることが出来ない。最近のものではないらしい。 「…ふむ」  目を細め、その日記としばらくにらめっこをしてみた。当然埒が明かない。もちろんこうしている間にも時間は刻一刻と過ぎているのは分かっているのだが、私はとうとう、目の前の興味に負けてしまった。 「○月×日―」    それが私と「右京」の出会いだった。
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