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ひばり音
クワガタを取りに出かけた。
家のすぐ近くの山道を上るとみかん畑がある。そこを抜けて少し上れば目当ての木に到着する。
いつものようにみかん畑に潜り、通り抜けていると歌が聞こえてきた。
田舎では蜜柑の木などにラジオを吊して作業中に放送を聞いたりする。
流れてくる歌はとても古臭い曲調だった。昭和を思わせるような単調なメロディ。女性の高音が少し歪んで何を言っているのかは解らない。
しかし、メロディが耳に残る。
歌はサビらしき部分から聞こえ始めた。
なんとなく足を止めた。
するとサビが終わる。
音楽が聞こえなくなった。どうやら歌が終わってしまったようだ。
クワガタは取れなかった。
ふて腐れてみかん畑を通った時、また歌が聞こえてきた。
同じ歌だった。
再び足を止めて聴き入る。
サビが終わると歌が途切れる。
…終わった。
歩きだす…
すると、また歌が流れ出した。
よく晴れた昼下がり、蝉の鳴き声が聞こえるみかん畑に古臭い歌が流れる。
ふと、歌の発信元。ラジオの場所を探そうと思った。
歌はサビの辺りを繰り返しているようだ。サビが終わるとしばらく無音が続き、再び歌が流れ出す。
発信元を探す。
どれくらい探し回っただろうか。発信元が見つからない。
そんなに広くないみかん畑だった。多分、その一帯はシラミ潰しに探したはずだった。
でも、見つからない。
だんだん気持ち悪くなってきた。いくら幼い私でも幾度となく繰り返される歌が不自然な事に気付いていた。何でもないその歌が不気味なものに感じる。
探している拍子にみかん畑を出た。
歌が聞こえなくなった。
それきり、みかん畑でその歌が流れる事はなかった。
今でもそのメロディは耳に焼きついている。
福岡県I群より
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